4/23/2005

世界時計の間

死者は、いつもこの薄暗い荒野で目を覚ます。
昼も無く、夜も無く、草一本も生えない、見渡す限りの赤土の荒れ野だ。目につくほどの岩も無い。何度も何度も、繰り返し蘇るあまたの死者の足の下で、すっかり磨り減ってしまったのだ。
ここは永遠の流刑の地だ。ひとたびこの景色を目にした者は、これからずっと、何度も見ることになる。

こ の荒野にも果てはある。その先は文字通りの地獄だ。だがこの場所には目に見える変化というものがない。風景と同じくらい荒廃した時間が、いつまでも不毛 に流れてゆくだけだ。だから死者たちはみな、この感覚遮断の牢獄に耐えかねて、地獄をめざして歩みだすのだ。方角はどうでも構わない。他に行き先は無い。 荒野のかなたは永遠の絶滅収容所があるばかりだ。
誰も確かめたものがいないが、地獄の亡者の間に伝わる根強い噂があって、地獄にもまた限りがあ り、首尾よく横断しきったものは、楽園か現世かそれとも別の 何かか、とにかく別の場所に行けるのだという。もっとひどい地獄だという意見ももちろんある。当然だ。希望は地獄で最悪の拷問具だなんてことは誰でも知っ ている。そして永遠に蘇りつづける死者たちは、無限に死の行進を続けるのだ。

しかし――
あるとき、ひと群れの亡者たちが、それまで誰も試さなかったことをした。地獄から赤い塵の荒野に戻っていったのだ。彼らの手には、何本かの粗末な道具が握られていた。そして亡者たちは――邪魔が入らぬよう、境界から十分に離れて――穴を掘り始めた。
幾 星霜の間、無数の足に踏みしめられてきた赤土は、ほとんど堆積岩のように硬くなっていた。だが、道具を持ち込んだ者たちは、あきらめなかった。飢えて倒 れて死ぬまで大地を削った。仲間の死体を食料として、亡者たちは掘り続けた。道具が磨り減ると、仲間の骨を使った。爪で地面を引っかいた。指がだめになる と次は歯だった。彼らは狂っていたのだ、もちろん。
生き残りがあと三人まで減ったとき、最初に死んだ仲間が、荒野の奥から帰還した。次に帰って来た者は、何人かの新たな仲間を連れてきた。
サイクルが閉じた。
少しずつ、少しずつ、薄紙を一枚一枚剥ぐように、穴は深くなっていった。

どれほどの時が過ぎたのか、突然、穴の底が崩落し、彼らの苦闘は終わりを告げた。生き延びた者もいたが、多くの仲間が埋め殺された。かまわない。いずれ帰ってくるだろう。
そこは、石造りの、広大なネクロポリスだった。

ネクロポリスは、死者にとってすら稀な、圧迫感を感じるほどの静寂につつまれていた。そして暗黒。

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