セグウェイ・ヒューマン・トランスポータ、またの名をジンジャー。
搭乗者の重心移動を検知、その望む方向に運ぶ、現代人の生活様式を変えるとまでいわれる乗り物である。
あるいは人間をセンサーとして自走するロボットとも言えるかもしれない。
いずれ、そのような、人体と相互にフィードバックしながら動作する自動機械たちの時代が来るのだろう。そのとき、それらは皆ジンジャーと呼ばれるのかもしれない‥‥
一人の若い女が、ツノダのジンジャーに乗って走っていく(多くのメーカーが各々のブランド名で売っているが、みんなジンジャーと呼ぶのだ。「自転車」や「自動車」と同じように)。その後を、買い物カゴを載せた貨物ジンジャーが追っていく。
彼女は、町にまだ段差があったころからの古いアパートに部屋を借りている。歩道からアパートのテラスに乗り上げるとき、ジンジャーは一瞬躊躇したように立 ち止まり、底面から、柔軟だが強力な、生きた指のような形のジャッキを出して、すばやく器用に段差を乗り越える。もちろん、彼女のポーターもすぐ後に続 く。
街の外でも、同じようなテクノロジーが使われている。林の中の、あるかなきかの山道を、営林署職員(あるいはダムかなんかの測量技師)が行く。彼の先人た ちを悩ませた重装備は、いまや彼にぴったりと付き添うジンジャーが担っている。彼がひ弱なわけではない‥‥万が一ジンジャーが損傷したときのための訓練に 怠りは無い‥‥だが彼は体力や注意力をもっと別のことに振り向けることができるのだ。
悪路用ジンジャーが普及したため、ハイキングは昔以上に一般的なレジャーとなった。体力に自信が無くとも、無理なく登山や徒歩旅行を楽しむことができるのだ。山野は老若男女、いろいろな人々で賑わっている。
そのとき、雨が降り出し、花のような雨傘ジンジャーが次々と開く。肩にとまって平衡をとり、常に最適な角度で雨を(もちろん周囲の人々も)避けるのだ。
一機のハンググライダーが音も無く空中を滑っていく。実際にはモーターグライダーだ。登坂用を兼ねるモーターが間歇的にプロペラを駆動して、自動的に高度 を維持する。センサーが常に周囲の気流や物体を見張っており、墜落や衝突を避けている。赤外線センサーが地上のホットポイントを見つけると、搭乗者の視野 に位置が投影され、彼(彼女)はほくそ笑む。すなわち上昇気流。すなわち高度。すなわちエネルギーだ。バッテリーを再充電できるし、何より、気流に乗って 大気を駆けのぼるのは楽しいだろう。
搭乗者は特別な訓練を受けたわけではない。飛行ジンジャーを身に付けた者は、本能的に飛べるようになる。練習は楽しく飛ぶためのものだ。
人類は鳥に進化したのだ。
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