7/14/2005

最強のラーメン

「最強のラーメン」「幻のラーメン」「日本一細いラーメン」
四谷三丁目の駅から歩いていける範囲に、こんなような看板の店々があった。でも一度も入る機会がなかったので、味は想像するのみである。
「最強のラーメン」歯が立たない。
「幻のラーメン」箸にも棒にもかからない。
「日本一細いラーメン」見えない。
五反田に勤めるようになって、こんなのも発見した。
「門外不出の味 京都屋台ラーメン」
京都には、広い大通りを、ぐるりを塀で囲まれ、客は門から出入りする、屋敷のような立派な屋台が上下している。あるとき、その一両が、関東にその味を問うべく、名神高速に乗り入れ、一路東へとひた走るのだった‥‥
やがて、後に続くものも、次々と現われるだろう。

7/13/2005

八兵衛

五代将軍綱吉の頃。甲斐の国、中山道沿いのとある丘の上に、ちょっと知られた団子屋があった。
そこに黄門一行が通りかかると、当然八兵衛が団子を食おうというのだ。
天気は晴朗、丘から見晴らす山景に、ご老公もまんざらではない。
「いい景色ですなあ」
「まったくでございます」
「絶景ですなあ」
「うーんうまい! この団子は絶品だ!」
八兵衛はさっそく床机に腰掛け、両手の団子を交互にほおばっていた。
「おい八! この景色を前にして、その態度はどうよ!? お前もたまには旅情とかだな、もっとこう普段思わない‥‥」
「やだなあ助さん、オイラだってちゃんと哲学してますよ」
「ホントか!? 何を考えてるんだ」
「この国の未来のことです。神君(徳川家康)様が天下を治められて以来、世の中は平和が続き、繁盛しています。人の往来もますます盛んになるでしょう」
「その通りだな」
「そうなると大切なのは街道です。人通りが多くなるにつれ、今の細い道では、いずれ交通量をさばけなくなるでしょう。道を広げ、雨が降ってもぬかるまない よう工夫しなければなりません。荷車や早馬で事故がおきないように、専用の道を作ったり、上り下りを分けるのもいいかもしれませんね」
「なるほどなあ」
「しかし街道ぞいに休息の場も必要になります。例えばこの団子屋ですけど、周囲は比較的平らですね。あのへんに馬つなぎ場を作って‥‥隣に駕籠置き場を‥‥井戸を‥‥団子屋も広げなくっちゃ‥‥おみやげを‥‥」
のちにこの丘は、中央自動車道談合坂サービスエリアと呼ばれることになる。

ジンジャーの世界

セグウェイ・ヒューマン・トランスポータ、またの名をジンジャー。
搭乗者の重心移動を検知、その望む方向に運ぶ、現代人の生活様式を変えるとまでいわれる乗り物である。
あるいは人間をセンサーとして自走するロボットとも言えるかもしれない。
いずれ、そのような、人体と相互にフィードバックしながら動作する自動機械たちの時代が来るのだろう。そのとき、それらは皆ジンジャーと呼ばれるのかもしれない‥‥

一人の若い女が、ツノダのジンジャーに乗って走っていく(多くのメーカーが各々のブランド名で売っているが、みんなジンジャーと呼ぶのだ。「自転車」や「自動車」と同じように)。その後を、買い物カゴを載せた貨物ジンジャーが追っていく。
彼女は、町にまだ段差があったころからの古いアパートに部屋を借りている。歩道からアパートのテラスに乗り上げるとき、ジンジャーは一瞬躊躇したように立 ち止まり、底面から、柔軟だが強力な、生きた指のような形のジャッキを出して、すばやく器用に段差を乗り越える。もちろん、彼女のポーターもすぐ後に続 く。

街の外でも、同じようなテクノロジーが使われている。林の中の、あるかなきかの山道を、営林署職員(あるいはダムかなんかの測量技師)が行く。彼の先人た ちを悩ませた重装備は、いまや彼にぴったりと付き添うジンジャーが担っている。彼がひ弱なわけではない‥‥万が一ジンジャーが損傷したときのための訓練に 怠りは無い‥‥だが彼は体力や注意力をもっと別のことに振り向けることができるのだ。

悪路用ジンジャーが普及したため、ハイキングは昔以上に一般的なレジャーとなった。体力に自信が無くとも、無理なく登山や徒歩旅行を楽しむことができるのだ。山野は老若男女、いろいろな人々で賑わっている。
そのとき、雨が降り出し、花のような雨傘ジンジャーが次々と開く。肩にとまって平衡をとり、常に最適な角度で雨を(もちろん周囲の人々も)避けるのだ。

一機のハンググライダーが音も無く空中を滑っていく。実際にはモーターグライダーだ。登坂用を兼ねるモーターが間歇的にプロペラを駆動して、自動的に高度 を維持する。センサーが常に周囲の気流や物体を見張っており、墜落や衝突を避けている。赤外線センサーが地上のホットポイントを見つけると、搭乗者の視野 に位置が投影され、彼(彼女)はほくそ笑む。すなわち上昇気流。すなわち高度。すなわちエネルギーだ。バッテリーを再充電できるし、何より、気流に乗って 大気を駆けのぼるのは楽しいだろう。
搭乗者は特別な訓練を受けたわけではない。飛行ジンジャーを身に付けた者は、本能的に飛べるようになる。練習は楽しく飛ぶためのものだ。
人類は鳥に進化したのだ。