地図には載っている。ただそれだけのつまらない村だった。
しかしWikipediaには、不釣合いに詳細な記述がなされている。
「人口664人(2006年)。主な産業は農業、プラスチック加工‥‥」
「神山分水嶺付近に源流を発する駒引川(二級河川)が村落の中心を流れ‥‥」
いかにも百科事典的な概要説明に始まった本文は、地形や歴史を異常に細かく記していく。
編集履歴を見ると、何人かのユーザが、時間をかけて構成してきた記事のようだ。
「駒引川上流にはゲンジボタルの群生地が‥‥」
「役畜供養のためとされる馬頭観音の石仏が多数‥‥」
「かつて松代藩主真田氏が発哺温泉に旅行するさい‥‥」
「郷土出身の作曲家N__は、大正期の歌謡曲の大家として知られ‥‥」
「簡易水道敷設は‥‥」
「S__氏は、地形の標高差を生かして、シャクナゲの‥‥」
「地域のバラ愛好家として知られるK__氏は、庭に120種におよぶ‥‥」
「1996年より始まった駒引川河岸改良工事はまだ未完成ながら‥‥」
省くことなく、脚色もせず。
ただ事実だけを。
結末は決まっている。
「2006年7月、台風3号がもたらした豪雨による土砂災害により壊滅。翌年9月廃村、地籍抹消」
けれど、決して忘れられはしない。
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