「産業の神々」(林正巳著、東京書籍刊)という本を読んでたら、不思議な話が載っていた。茨城県の蚕影神社に伝わる伝承である。要約すると、
インドの王女、金色姫は迫害を逃れて桑の木の船(外から中が見えないカプセル状らしい)に乗って漂流するも、筑波山麓のある村に漂着。村人に保護されるが、それも束の間コロッと死んでしまう。死体は蚕に変じた。
のちに姫は、皇女、各谷(かくや)姫に転生、筑波山に遷り、その地に養蚕業を興した。前世の養父であった村人は絹を商って身代を築いた。
竹取物語とは、相当違った話だけれど、共通するモチーフもいくつかある。
異界から訪れ、カバーの中から突如姿を現すヒロイン。
ヒロインの突然の消失。
養父にもたらされる富貴。
ひょっとしたら、昔の人は、かぐや姫というキャラクターを、ハイヌウェレのような、生命と引き換えに富をもたらす存在と認識していたのかもしれない。
ファンタジックでユーモラスな御伽話の影に、何かが横たわっている気がする。
参考:
http://park19.wakwak.com/~hotaru/kokagesann.htm
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%8C%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%AC%E5%9E%8B%E7%A5%9E%E8%A9%B1
7/02/2006
水の女と蛇の男 - ある神話
昔々、世界がまだ定まった形をなしておらず、光と暗闇の渾然たる混合物の塊であった頃、そこに現れた最初の命あるものは、<水の女>という、原初の精霊であった。<水の女>は、自分の居場所を確保するため、混沌の世界を二つに分け、その隙間を押し広げた。混沌に内在していた光輝ははるか上方に、そして暗闇は下方に追いやられ、その中間の、海と水面を渡る風の領域を、彼女は支配した。
時は流れ、<水の女>は次々に子を生み、太古の海に住まわせた。それらは、彼女一人から生まれた者なので、性もなく、また光も必要としない生物たちだった。
さて、世界の底に追放された暗闇は、一匹の大きな蛇の形に固まっていた。それは長い間、命の無い塊だったのだが、ある時それは目覚め、<蛇の男>と呼ばれる精霊となった。<蛇の男>は<水の女>同様、恐ろしく強力な精霊であったが、なにぶん生まれたばかりも同然のこと、本能の赴くままに、<水の女>に襲いかかり、無理矢理交わった。二人の精霊の争いの間に、無数の生物が死んでいった。
しかしやがて争いは終わった。双方ともに多くを学んだのである。精霊たちの間に、多くの新たな生物が生まれた。それらは、両親の間の領域、海面より下に棲む者たちだった。時が過ぎて行った。
さて、世界の上の果てに追いやられた光は、一羽の大きな鳥の形の、<鳥の男>と呼ばれる精霊になっていたが、<蛇の男>同様、悠久の眠りを眠り続けていた。だがついに目覚めた。<鳥の男>は、生まれつきある程度聡明だったのか、あるいは別の原因かも知れないが、<蛇の男>と違って、いきなり人を襲うようなことはしなかった。しかし彼を動かすのは、やはり雄の本能だった。邪魔な<蛇の男>を排除し、<水の女>を独占するため、彼は、自分の体を構成する光の物質から、一振りの武器を砥ぎだした。虚空を走り闇を裂く瞬速の矢。電光である。<鳥の男>が投じた電光は、<蛇の男>を粉々に爆砕した。
この戦いでもまた多くの子供たちが死んだ。戦いの後も、<鳥の男>から放たれる光に耐えられない者たちが、さらに続々と死んでいった。だがそれも終わった。時が過ぎるとともに、世界に再び子供たちが満ちていった。<鳥の男>と<水の女>の子供たちだった。それらは、両親の間の領域、海面とその上、地上と空中に棲む者たちだった。だが、それらの中に、奇妙な異分子が紛れ込んでいるのを、残された精霊たちは、かなり後になるまで気づかなかった。気づいた時には、取り除けるのが不可能なほど、世界中に散らばり、他の生物たちの間に溶け込んでいた。粉砕された<蛇の男>の屍から生まれた種族だった。それは人間だった。
その頃、生命と肉体を失った<蛇の男>は、この世界の外、すべての死者が赴く場所にいた。そこは辺土(リンボ)または霊界とも呼ばれる場所である。彼はそこで、自分や<鳥の男>が殺した多くの子供たちを見た。彼らはか弱く小さな生物だったので、もはや元の世界に戻る力は無く、永久にこの死者の領域に縛り付けられていた。<蛇の男>はまた、辺土に生まれついたり、あるいはまた別の世界からやってきたと思しき他の精霊たちも見た。それらの中にはかなり強力な者もいた。彼の知る限り、彼に匹敵するほどの者はいなかったが、それでも子供たちよりははるかに強力だった。探せば、彼と同等もしくは彼以上に力のある者もいるかもしれなかった。
<蛇の男>はここでも多くを学んだ。そして武器を手に入れた。復讐のときは近づいていた。
現世と辺土の境界を破り復活した<蛇の男>と、<鳥の男>の二度目の戦闘は、今までに無い大激戦となった。沃野が一瞬で焦土と化し、あるいは大陸の形が変わるほどの戦いだった。電光に対抗するため、辺土から、地獄の炎をはじめ多くの武器を携えてきた<蛇の男>は、終始<鳥の男>を圧倒していたが、最後の一撃に、なぜか一瞬躊躇した。次の瞬間、彼は再び、敵が放った電光に粉砕されていた。
辛くも一命を保った<鳥の男>であったが、彼には謎が残された。なぜ<蛇の男>は止めをためらったのか。なぜ再び辺土から出てこないのか。
<蛇の男>は、三度にわたって子供たちを虐殺され、悲しむ<水の女>を見たのかも知れぬ。そして何かを考えたのかもしれぬ。あるいは、自分たちが荒廃させた世界を見たのかも知れぬ。苦難を乗り越え、流刑の地よりやっとの思いで帰り着いた故郷に、自分がもたらした災厄について、何か感ずるところがあったのかも知れぬ。だがこれらは、子供たちが後から推測したことだ。原初の精霊の思考を、小さな者の限られた能力で理解したつもりになるのは危険を伴う。
<鳥の男>にも確かな所はわからなかった。今も考え続けている。
時は流れ、<水の女>は次々に子を生み、太古の海に住まわせた。それらは、彼女一人から生まれた者なので、性もなく、また光も必要としない生物たちだった。
さて、世界の底に追放された暗闇は、一匹の大きな蛇の形に固まっていた。それは長い間、命の無い塊だったのだが、ある時それは目覚め、<蛇の男>と呼ばれる精霊となった。<蛇の男>は<水の女>同様、恐ろしく強力な精霊であったが、なにぶん生まれたばかりも同然のこと、本能の赴くままに、<水の女>に襲いかかり、無理矢理交わった。二人の精霊の争いの間に、無数の生物が死んでいった。
しかしやがて争いは終わった。双方ともに多くを学んだのである。精霊たちの間に、多くの新たな生物が生まれた。それらは、両親の間の領域、海面より下に棲む者たちだった。時が過ぎて行った。
さて、世界の上の果てに追いやられた光は、一羽の大きな鳥の形の、<鳥の男>と呼ばれる精霊になっていたが、<蛇の男>同様、悠久の眠りを眠り続けていた。だがついに目覚めた。<鳥の男>は、生まれつきある程度聡明だったのか、あるいは別の原因かも知れないが、<蛇の男>と違って、いきなり人を襲うようなことはしなかった。しかし彼を動かすのは、やはり雄の本能だった。邪魔な<蛇の男>を排除し、<水の女>を独占するため、彼は、自分の体を構成する光の物質から、一振りの武器を砥ぎだした。虚空を走り闇を裂く瞬速の矢。電光である。<鳥の男>が投じた電光は、<蛇の男>を粉々に爆砕した。
この戦いでもまた多くの子供たちが死んだ。戦いの後も、<鳥の男>から放たれる光に耐えられない者たちが、さらに続々と死んでいった。だがそれも終わった。時が過ぎるとともに、世界に再び子供たちが満ちていった。<鳥の男>と<水の女>の子供たちだった。それらは、両親の間の領域、海面とその上、地上と空中に棲む者たちだった。だが、それらの中に、奇妙な異分子が紛れ込んでいるのを、残された精霊たちは、かなり後になるまで気づかなかった。気づいた時には、取り除けるのが不可能なほど、世界中に散らばり、他の生物たちの間に溶け込んでいた。粉砕された<蛇の男>の屍から生まれた種族だった。それは人間だった。
その頃、生命と肉体を失った<蛇の男>は、この世界の外、すべての死者が赴く場所にいた。そこは辺土(リンボ)または霊界とも呼ばれる場所である。彼はそこで、自分や<鳥の男>が殺した多くの子供たちを見た。彼らはか弱く小さな生物だったので、もはや元の世界に戻る力は無く、永久にこの死者の領域に縛り付けられていた。<蛇の男>はまた、辺土に生まれついたり、あるいはまた別の世界からやってきたと思しき他の精霊たちも見た。それらの中にはかなり強力な者もいた。彼の知る限り、彼に匹敵するほどの者はいなかったが、それでも子供たちよりははるかに強力だった。探せば、彼と同等もしくは彼以上に力のある者もいるかもしれなかった。
<蛇の男>はここでも多くを学んだ。そして武器を手に入れた。復讐のときは近づいていた。
現世と辺土の境界を破り復活した<蛇の男>と、<鳥の男>の二度目の戦闘は、今までに無い大激戦となった。沃野が一瞬で焦土と化し、あるいは大陸の形が変わるほどの戦いだった。電光に対抗するため、辺土から、地獄の炎をはじめ多くの武器を携えてきた<蛇の男>は、終始<鳥の男>を圧倒していたが、最後の一撃に、なぜか一瞬躊躇した。次の瞬間、彼は再び、敵が放った電光に粉砕されていた。
辛くも一命を保った<鳥の男>であったが、彼には謎が残された。なぜ<蛇の男>は止めをためらったのか。なぜ再び辺土から出てこないのか。
<蛇の男>は、三度にわたって子供たちを虐殺され、悲しむ<水の女>を見たのかも知れぬ。そして何かを考えたのかもしれぬ。あるいは、自分たちが荒廃させた世界を見たのかも知れぬ。苦難を乗り越え、流刑の地よりやっとの思いで帰り着いた故郷に、自分がもたらした災厄について、何か感ずるところがあったのかも知れぬ。だがこれらは、子供たちが後から推測したことだ。原初の精霊の思考を、小さな者の限られた能力で理解したつもりになるのは危険を伴う。
<鳥の男>にも確かな所はわからなかった。今も考え続けている。
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