12/08/2004

テスト

量子コンピュータが実用化された当初から、奇妙なノイズ混入が問題になっていた。量子演算のために非決定論的状態におかれているキュービット配列が、虫食いのように勝手に収束してしまうのだ。
原因解明の最初の手がかりは、太陽系外縁に送り込まれた探査ロボットたちからもたらされた。現象は、太陽系の、カノープスに近い側では、反対側よりもわずかに高頻度で発生するのだった。
結局それは、カノープスの方向から何者かが高速で接近してくることを示していると思われた。その何者かは接近中に、星間分子を「観測」することで量子状態 を収束させ、数十億年前にその分子と切り離された、量子もつれの関係にある相棒をも同時に収束させてしまっていたのである。たまたまその相棒が太陽系内に 存在し、かつ量子コンピュータのキュービットとして使われていたために、虫食い現象として観測されたのだった。
法則が理解できれば、利用することができる。量子メモリは加速度的な増産体制に入り、島ほどもある非決定論的キュービット配列が次々と遠軌道に送り込まれ、宇宙を見張る目となった。
何かが、宇宙開闢のインフレーション的膨張の速度で、太陽系にやってくる。光速を超えるといってもわずか数倍、茫漠たる宇宙では這うが如き苦しい旅を。
手段はともかく、動機は誰もが知っている。
「何か」の観測データから、人類文明は膨大な知識を吸収した。量子メモリの大増産に伴う好景気や技術の発展も進歩を後押しした。だから、ファーストコンタクトのときには、すっかり準備が整っていた。
捕虫網がわりの重力カタパルトが捕らえたのは、ドラム缶ほどの大きさのカプセルだった。カプセルは太陽系の手前で自ら光速以下に減速し、駆動装置を内蔵していることを教えていた。
このカプセルを分析すれば、超光速駆動が手に入る。
無償の好意の理由を、誰もが知っている。
はるか遠方で手紙の返事を待つ、カノープス人の孤独を、人々は思った。

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