昔々のことである。
世の中にあまりに戦争が多かったので、世界中から代表者が集まって、対策会議を開いた。
最初に、鉄のように厳しい顔をしたドイツの将軍が提案した。
「一年のうち、戦いを休む日を何日か決めたらどうだろう。クリスマスなんかどうだね」
豪華な衣装のアラブ人が不機嫌に答えた。
「それはキリスト教徒の祭日だろう。我々の都合も考えてもらわねば困る」
「マホメットの祭日も休みにすればいい。しっかり休んで、準備を整えて、有事の際には正々堂々力いっぱい戦おう」
大きな壁掛けカレンダーが運ばれてきて、一月毎に切り離され、机の上に並べられた。
各国の代表者は、それぞれの国の重要な記念日や祝日を、赤丸で囲んで印をし、小さく簡単な説明を書き込んだ。
新年、クリスマス、万聖節‥‥
イスラム教の祝日や断食月、いろいろな宗教の祭日‥‥
各国の建国記念日や偉人の誕生日‥‥
赤丸はどんどん増えていった。
最初に提案した将軍は、いい加減に止めようとしたが、長いガウンと羽団扇の中国代表が、七月七日の七夕の節句に印をつけたのを見た瞬間、声が出せなくなっ てしまった。それは昔、彼が最初に部下を死なせてしまった日で、将軍は個人的な記念日として、今も毎年、教会で祈るのだった。
アルメニア人、ベルギー人、カナダ人‥‥
キリスト教徒、イスラム教徒、仏教徒、無神論者‥‥
各国代表の半分ぐらいは軍人や武器商人の関係者で、赤丸が増えるにつれ顔色が悪くなっていったが、結局どうしようもないとあきらめて、一緒になって休みを増やしていった。このままでは、自分たちに都合が悪い日ばかりに戦わされる羽目になるからだ。
将軍はまたも止めようとしたが、そのとき誰かが、将軍の母の命日に丸をつけた。その日、彼は戦地にいた。臨終に立ち会えなかったことで、身を焼くような後悔に苦しんだ。
(続けさせろ)
将軍の内心で誰かがささやいた。
(続けさせろ)
彼が人々を止めようとするたび、同じ声がした。
声はだんだん大きくなっていった。
(なんとかしてくれ)
将軍はどうしようも無くなって、自分と同じくらい好戦的なアラブ人に、懇願するような目を向けた。ところがアラブ人も同じ表情で自分を見ていた。二人はびっくりして視線をそらした。
とうとうカレンダーは赤丸で一杯になってしまったが、一日だけ、五月十四日だけがまだ残っていた。四年に一度しか来ない二月二十九日でさえ、イギリス代表がつけた印があるのに。(女性から男性に求婚するのが許される日である。確かに戦争には都合が悪いだろう)
「これで終わりか? 他にはないのか?」
将軍が、会場を真っ赤な顔で見回した。混乱していた。混乱する自分に対して激怒していた。自分がなぜ、戦争を根絶したいのかわからなかった。
アラブ人も、誰彼と無く、普段仲の悪い他の宗派のイスラム教徒まで捕まえて、熱心に話し込んでいた。
しかし、世界中のどこにも、五月十四日を大切な日にしている国は無かった。
そのとき、会場の片隅から、恥ずかしそうに、一人の若い女が進み出た。
南太平洋の小さな島からやってきた、ヒナカナリリ王女だった。あまりに小さな国なので、貧しく、人手不足で、王女が一人、随員も無く会議に参加したのだった。
「あのう‥‥その日は私の誕生日です」
ドイツ人とアラブ人が、それぞれ紙とペンを掴んで、彼女の元へ、争うように駆けつけた。
そして長い年月が過ぎ、誓いは破られ、今も戦火は絶えないけれど、世界中の誰もが、その日を祝っている。